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東京地方裁判所 昭和40年(行ウ)153号 判決

原告 佐々木梅香

被告 東京都渋谷区長

主文

東京都知事が昭和二七年九月一五日付で別紙目録記載(一)ないし(四)の土地にまたがり別紙図面表示A・B・C・D・Aの各点を順次結ぶ直線で囲まれた土地一九一平方メートルについてした道路位置指定処分中右図面表示A・B・C・D・E・H・G・F・Aの各点を順次結ぶ直線で囲まれた土地約一五三・九三平方メートルに関する部分が無効であることの確認を求める訴えを却下する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立て

(原告)

東京都知事が昭和二七年九月一五日付で別紙目録記載(一)ないし(四)の土地にまたがり別紙図面表示A・B・C・D・Aの各点を順次結ぶ直線で囲まれた土地一九一平方メートルについてした道路位置指定処分が無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とするとの判決

(被告)

本件訴えを却下する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決

(右申立てが容れられないときは、)

原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決

第二原告主張の請求原因

請求の趣旨記載の道路位置指定処分は、別紙目録記載(一)ないし(四)の土地の所有者であつた岩間ぎんが、(四)の土地の上にあつた仮小屋を使用するために、(三)の土地の上に建在する同目録記載(五)の建物の所有者であつた岩間慶吉の承諾を得てした昭和二七年八月八日付の申請に基づいてなされたものであるが、当時、すでに、原告は、同年四月二一日、ぎんから右(三)の土地を、また慶吉から右(五)の建物を買い受け(現に右土地の所有名義人であり)、同年五月一〇日には該建物に入居し、同年九月三日には慶吉から原告に対する建築確認申請の名義変更届けがなされていたのであるから、本件道路位置指定処分は、無権利者の申請と承諾に基づくものとして、当然無効であるというべきである。

また、本件道路位置指定処分は、前叙のごとく、別紙目録記載(一)ないし(四)の土地の各一部にまたがつてなされたものであるのに、その指定処分書には、同処分は「東京都渋谷区上原一丁目一一〇六番」の土地についてなされたものと記載されている。しかし、処分当時はもとより現在にいたるまでかかる地番の土地は存在せず、これがため、本件道路位置指定処分によつては右四筆の土地のいずれの部分がいかなる範囲において道路敷となるのかが不明であるばかりでなく、図面上では、原告所有の(五)の建物は、道路にかからないようになつているが、現実にはその一部が道路上に位置することとなり、現に、その部分は、不法建築として除却命令を受けている有様である。したがつて、本件道路位置指定処分は、その対象の特定を欠くものとして、この点からも無効であるというべきである。

しかして、右除却命令の執行に基づく損害を防止するためには、訴訟によつて本件道路位置指定処分の無効が確認されることが必要であるので、本訴提起に及んだ。なお、原告の所有する別紙目録記載(五)の建物は、本件道路位置指定に係る道路がなくても公道に通ずる道路に接する余地があり、その旨建築確認によつて認められているのである。

第三被告の答弁

(本案前の抗弁)

原告の所有する別紙目録記載(三)の土地は、本件道路位置指定処分に係る道路が存在することにより、はじめて、道路に接することとなり、建築基準法所定の要件を具備するものとして、これを建築物の敷地に使用し得るものである。したがつて、原告からかかる法的状態を奪い、同法違反の状態を招来する結果となる本件訴えは、訴えの利益を欠くものであるから、不適法な訴えとして却下を免かれないというべきである。

(請求原因に対する答弁)

原告主張の請求原因事実はすべて認めるが、その法律上の主張は争う。

道路位置指定処分の申請者ないし申請書添付の承諾書に表示された承諾者が当該道路の道路敷となる土地又はその土地の上にある建築物等の所有権者又はその他の権利者であるかどうかにつき、道路位置指定処分を行う特定行政庁としては、形式的審査権を有するにすぎないところ、本件道路位置指定処分の申請がなされた昭和二七年八月八日当時、別紙目録記載(三)の土地及び同土地の上に建在する同目録記載(五)の建物の所有権がすでに原告に移転されていたとはいえ、申請者たる岩間ぎんが右土地の登記簿上の所有名義人であり、また、承諾者たる岩間慶吉が右建物の建築確認書に記載された建築主であつたことは、原告の自認するところであり、その後本件道路位置指定処分のなされるまでに建築確認申請名義人が慶吉から原告に変更されたが、原告としては、慶吉の承諾者たる地位を当然承認するものである。

また、本件道路位置指定処分の申請がなされた当時、道路敷となるべき関係土地の地番表示は、(1)渋谷区上原一丁目一一〇四番六(当時六〇・八五坪=二〇一・一五平方メートル)、(2)同所一一〇六番二(当時二七・一八坪=八九・八五平方メートル)、(3)同番三(別紙目録記載(一)の土地及び(4)同番の四(同上(二)の土地)であり―後に右(1)と(2)の土地を合筆して一一〇四番六とし、さらにこれを分筆して同所一一〇四番一六(同上(三)の土地)と同番六(同上(四)の土地)とされた―その大部分の親番号が「一一〇六番」であつたところから、申請書には右の親番号のみを記載し、これに基づき、指定処分書にも「一一〇六番」とのみ表示されたのであるが、各土地の具体的範囲は、添付図面等によつて、関係人には疑いを容れる余地のないほど明確にされている。したがつて、本件道路位置指定処分には、対象の特定を欠く瑕疵はない。

なお、原告所有の前記建物の一部が道路上に存在しているのは、本件道路位置指定処分がなされた後の昭和三八年四月ころ原告がその部分の増築をしたことによるのであつて、もとより、右処分当時にはそのような状態ではなかつた。

第四証拠関係〈省略〉

理由

(本案前の判断)

本件道路位置指定処分が判決で無効であると確認されることによつて建築基準法違反の状態の発生することがあるとしても、かかる状態をなくするためには、あらためて適法な道路位置指定処分を受ける等の方法が残されているのであるから、単に右のごとき違法状態の発生するという一事のみをもつて、本件訴えがその利益を欠くものと断定することは許されない。されば、被告の本案前の抗弁は、採用の限りでないというべきである。

しかし、本件道路位置指定処分は、一個の意思表示によつてなされたものであるとはいえ、その内容が可分であり、かつ、その各部分を特定し得るものであるから、単にその一部が指定より除外されることによつて所期の効果を挙げることのできない事態の生ずることがあるからといつて、その一部のみの違法を主張してその無効確認を求める訴えが許されないわけではないというべきであるから、原告としては、本件道路位置指定処分のうち、その所有に係る別紙目録記載(三)の土地に関する部分のみの違法を主張して該部分(別紙図面表示E・F・G・H・Eの各点を順次結ぶ直線で囲まれた約三七・〇七平方メートルの部分)のみの無効確認を求めることができ、かつ、それをもつて足りるというべきであつて、それをこえて他人所有に係る部分についてまで無効確認を求めることは、その利益がなく許されないものというべきである。したがつて、本件訴えのうち、原告所有に係る土地以外の部分に関する本件道路位置指定処分(別紙図面表示A・B・C・D・E・H・G・F・Aの各点を順次結ぶ直線で囲まれた約一五三・九三平方メートルの部分)の無効確認を求める部分は、その利益がなく不適法として却下を免かれないものというべきである。

(本案の判断)

別紙目録記載(一)ないし(四)の土地の所有者であつた岩間ぎんが、昭和二七年八月八日(三)の土地の上に建在する同目録記載の(五)の建物の所有者であつた岩間慶吉の承諾を得てした申請に基づき、東京都知事が、特定行政庁として、昭和二七年二月二七日付で、右各土地にまたがる別紙図面表示A・B・C・D・Aの各点を順次結ぶ直線で囲まれた土地一九一平方メートルについて道路位置指定処分をしたことは、当事者間に争いがない。

原告は、申請のなされる前である同年四月二一日、原告において右(三)の土地をぎんから、また、右(五)の建物を慶吉から買い受け、同年五月一〇日には右建物に入居しており、また、本件道路位置指定処分の行なわれる前である同年九月三日にはすでに建築確認申請書の建築主名義を慶吉から原告に変更する旨の届出がなされていたのであるから、右(三)の土地に関する限り、申請又は承諾は無効であり、したがつて、本件道路位置指定処分もまた無効である、と主張する。しかし、申請のなされた当時申請者たるぎんが右土地の登記簿上の所有名義人であり、また、承諾者たる慶吉が右建物の建築確認書に記載された建築主であつたことは、原告の主張自体に徴して明らかであるから、東京都知事が本件道路位置指定処分を行なうにあたりあらためて原告の同意又は承諾を得なかつたことが仮りに違法であるとしても、かかる瑕疵をもつて原告主張のごとく本件道路位置指定処分の無効原因となし得ないことはいうまでもない。

また、原告は、本件道路位置指定処分は、その処分書には「東京都渋谷区上原一丁目一一〇六番」の土地についてなされたと記載されているが、かかる地番の土地は存在していないのであるから、対象の特定性を欠き無効である、と主張する。しかし、道路位置指定処分は、申請者が指定を受けようとする道路の敷地となる土地の所有者及びその土地又はその土地にある建築物若しくは工作物に関して権利を有する者の承諾を得たうえで、その承諾書と所定の事項を明示した図面を添付して提出した申請書に基づいてなされるものであり(建築基準法施行規則九条参照)、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三によれば、本件道路位置指定処分の申請も、右の方式に間然するところがないことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。そして、本件道路位置指定処分書とそれに添付された図面(前掲乙第一号証の三)の記載を全体としてみれば、本件道路位置指定処分が請求の趣旨記載の各土地部分についてなされたことは、まことに明らかである。されば、この点に関する原告の主張も、採用し得ない。

よつて、本件訴えのうち、別紙図面表示A・B・C・D・E・H・G・F・Aの各点を順次結ぶ直線で囲まれた約一五三・九三平方メートルの部分についての本件道路位置指定処分の無効確認を求める部分は、その利益がないので不適法としてこれを却下し、その余の請求部分は、本件道路位置指定処分には原告主張のごとき無効の瑕疵が認められないので、理由がなく失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡部吉隆 園部逸夫 渡辺昭)

(別紙)〈省略〉

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